七夕の笹飾りは「手先の練習」では終わらない。制作活動が育てる集中力と思考力
七夕が近づくと、保育園や幼稚園では短冊に願い事を書いたり、折り紙で星や輪飾りを作ったりと、笹飾りづくりが始まります。「季節の行事だから」「指先を使う練習になるから」と考えられがちな制作活動ですが、実はその時間には、子どもの脳の発達を支える重要な学びが数多く含まれています。
折る、切る、貼る、通す、結ぶ。
一つひとつは単純な動作に見えても、その裏側では、集中力や思考力、自分の行動を調整する力など、生涯にわたって学びを支える力が育まれているのです。
目次
手指を動かすことは、脳を育てる大切な経験
「手は第二の脳」という表現を耳にすることがあります。併し、医学的にそのような器官が存在するわけではありません。一方で、脳科学では、手指を動かす運動は脳の広い領域と関わっていることが知られています。
折り紙を折る時、子どもは紙の角を合わせ、折り目がずれないよう力加減を調整します。鋏を使えば、目で見た線を追いながら指先を動かします。
つまり制作活動は、「見て」「考えて」「手を動かし」「結果を確かめる」という一連の情報処理を繰り返しているのです。こうした経験は、手先の器用さだけでなく、視覚と運動を結び付ける働きや、身体を思い通りに動かす力の発達を支えます。
「完成させる力」は前頭前野で育つ
笹飾りづくりでは、「ここを折ったら、次は切る」「糊が乾くまで待とう」など、完成までの手順を考えながら作業を進めます。このような活動では、脳の前頭前野が担う実行機能が活発に働くと考えられています。実行機能とは、
- 注意を向け続ける
- 衝動を抑える
- 手順を覚える
- 状況に応じて行動を切り替える
といった働きの総称です。
米国・ハーバード大学「子どもの発達センター」では、この実行機能を「空港の管制塔」のような役割と表現しています。多くの情報を整理し、優先順位を決め、適切に行動するために欠かせない力であり、幼児期の遊びや生活体験を通して育つことが示されています。七夕の制作活動もまた、「完成」という目標に向かって、一つひとつの工程を積み重ねる実行機能の訓練になっているのです。
「少し難しい」が脳を大きく成長させる
折り紙を折っていると、「角が合わない」「上手く切れない」と戸惑う場面があります。併し、この「少し難しい」と感じる経験こそが、子どもの成長を促します。近年、日本で行われた幼児の折り紙に関する研究では、正確に折る力は4歳頃から大きく発達し、折り紙を完成させる力には、折る精度だけでなく図形を認識する力や実行機能も関係していることが報告されています。更に、大人の適切な言葉掛けは、子どもの注意の向け方や手の動きを助けることも示されています。
大切なのは、最初から上手に作ることではありません。試行錯誤を繰り返しながら、「もう一回やってみよう」と挑戦する経験そのものが、粘り強さや自己効力感を育てていきます。
七夕だからこそ育てられる力がある
笹飾りづくりには、完成品以上に価値があります。例えば、
「どこに飾ろう。」
「星を何色にしよう。」
「願い事に合う飾りはどれだろう。」
こうした問いに向き合う時間は、子ども自身が考え、選び、表現する時間でもあります。更に、友達と飾りを見せ合ったり、願い事を聞き合ったりすることで、「相手はどんなことを考えているのだろう」と想像する機会も生まれます。七夕は、日本に古くから伝わる伝統行事であると同時に、集中力や思考力、創造性、そして他者への関心を自然に育む教育活動でもあるのです。
まとめ
一枚の折り紙が、未来の学びを支える
七夕の笹飾りは、季節を彩る作品ではありません。子どもにとっては、「どう折ればいいだろう」「次は何をしよう」と考え続ける、小さな挑戦の積み重ねです。幼児期に経験するこうした制作活動は、手先の器用さだけでなく、集中力、実行機能、粘り強さ、自己効力感など、学びの土台となる力を育みます。
七夕の笹を見上げたとき、飾られているのは色とりどりの折り紙だけではありません。子どもたちが自分で考え、工夫し、最後までやり遂げた「学びの軌跡」もまた、一緒に揺れているのです。
参考文献・引用
・細谷理香「Development of young children’s origami skills: fine motor skills and spatial skills in making origami cicada」(2025)
・Center on the Developing Child at Harvard University, Building the Brain’s “Air Traffic Control” System: How Early Experiences Shape the Development of Executive Function(2011)
・Masamichi Yuzawa・William M. Bart, Young children’s learning of size comparison strategies: effect of origami exercises(2002)






